January 2012
9 posts
けれども私は、その時は、たじろがなかった。 人間のプライドの究極の立脚点は、 あれにも、これにも死ぬほど苦しんだことがあります、と言い切れる自覚ではないか。 私は丙種合格で、しかも貧乏だが、いまは遠慮することはない。 これからT君と妹との結婚の事で、万一むずかしい場合が惹起したところで、 私は世間ていなどに構わぬ無法者だ、必ず二人の最後の力になってやれると思った。 — via「東京八景」太宰治
私は、いまは一箇の原稿生活者である。 旅に出ても宿帳には、こだわらず、文筆業と書いている。 苦しさはあっても、めったに言わない。 以前にまさる苦しさはあっても私は微笑を装っている。 ばかどもは、私を俗化したと言っている。 毎日、武蔵野の夕日は、大きい。ぶるぶる煮えたぎって落ちている。 私は、夕日の見える三畳間にあぐらをかいて、わびしい食事をしながら妻に言った。 「僕は、こんな男だから出世もできないし、お金持ちにもならない。 けれども、この家一つはなんとかして守っていくつもりだ」 その時に、ふと、東京八景を思いついたのである。 過去が、走馬燈のように胸の中で回った。 — via「東京八景」太宰治
人の転機の説明は、どうもなんだか空々しい。 その説明が、ぎりぎりに正確を期したものであっても、 それでも必ずどこかにうその間隙がにおっているものだ。 人は、いつも、こう考えたり、 そう思ったりして、行路を選んでいるものではないからでもあろう。 多くの場合、人は、いつのまにか、ちがう野原を歩いている。 — via「東京八景」太宰治
父は嘘をついていた。 僕は二十歳になって、事実を知った。 だが、ほんとうにたいせつな真実というものは、 父と過ごしてきた日々にあったのかもしれない。 — via「とんび」重松清
二人きりの家族が仲違いをしてしまうと、 そこには「ひとりぼっち」が二人しか残らない。 — via「とんび」重松清
アキラが悲しいときにおまえまで一緒に悲しんどったらいけん。 アキラが泣いとったら、おまえは笑え。泣きたいときでも笑え。 二人きりしかおらん家族が、二人で一緒に泣いたら、どげんするんな。 慰めたり励ましたりしてくれる者はだーれもおらんのじゃ。 — via「とんび」重松清
「おまえは海になれ」和尚はいった。 雪は悲しみじゃ。 悲しいことが、こげんして次から次に降っとるんじゃ。そげん想像してみい。 地面にはどんどん悲しいことが積もっていく。色も真っ白に変わる。 雪が溶けたあとには、地面はぐじゃぐしゃになってしまう。 おまえは地面になったらいけん。海じゃ。 なんぼ雪が降っても、それを黙って、 知らん顔して呑み込んでいく海にならんといけん。 — via「とんび」重松清
そのかわり、毎晩、おねしょをする。 「叱ったらいけんよ、アッくんのことを」と 『夕なぎ』のたえ子さんには言われているし、 ヤスさんにもそんなつもりはない。 子どものおねしょは涙と同じだ、と思う。 — via「とんび」重松清
あたしは無口で、 自分のほんとうの気持ちは 演目にのせて語ることしかできなかったし、 真田のほうは物語を必要としてない人、 つまりはまともな人間だった。 — via「ファミリーポートレイト」桜庭一樹
December 2011
2 posts
毎日ねむい 夜更かししているわけでもないのに 休みの日は12時間以上寝てるのに 寝ているだけでお金が稼げたらいいのに 人間が二人一組で生きていくということになって 1人が24時間はたらき続ける、 もう1人は24時間寝てパワーを相手に送り続ける みたいな世界になったらな それか電気がなくなって 太陽が沈んだらもう仕事出来ません 寝る時間ですよみたいな世界 シエスタのある世界 起きなくてもいい朝 ー via saboyの日記
さっき軽くうたた寝してて、 給料日に振り込まれた給料全額洗濯機に入れて回してブログに書くって夢見た。 起きたら汗だくで、電気敷毛布のレベルはダニだった。 — via Twitter by takawo
November 2011
1 post
スーパーの仕事というのはみんなの人生の食生活を ちょっとサポートする仕事で わたしだって人生の主人公なのに 国民の祝日も休めないし なんでみんなのためにさあ 人生がテレビ番組だとしたら 仕事はCMみたいなもので CMが多すぎんだよばか!って思ったけど いいお客さんがいると働いてて良かったなあとおもう 人との交流ってやっぱりいいな! それで誰かさんが 美しさというものを、 日本人は二次元で、 フランス人は三次元で捉えるって言ってて 三次元で美しくなろうと心に誓った秋の空! — via saboyの日記
October 2011
2 posts
夢のような少女でしたと 貴方はたしかに書かなかったか 夢にしては汚すぎたと 貴方はたしかに想わなかったか — via「人生」北杜夫
見えるものと見えないもの、 今あるけれどいずれはなくなってしまうもの、 そういったことがいつも気になるんですよね。 それは私たちの生そのものに対する驚きと問いみたいなもの。 光というもの一つにしても、 その都度その都度では分かるんだけれども、 正体が何であるかまだ分からない。命もそうですよね。 でも確実に私たちはそれを毎日体験していて。 私にとって、 人生を思ったり考えたりするときの、 本質的なものだと感じるから、気になるんだと思います。 — via 読売新聞(2011.10.19 朝刊)文化「popstyle」by 川上未映子
September 2011
7 posts
引越しに向けて狂ったように個人情報をばら撒いて、 寂しさを紛らわすかのようにネットのサービスに登録する。 信用されていないから、個人情報を求められ…まるで人質みたい。 個人情報を責任持って保護されているのは人質の確保のためだ。 この一ヶ月で沢山の僕が人質にされた。リスクが高くなった分、生活が豊かになった。 ★ 感情に蓋をするのは臭いからだと思っていたけど、 感情を隠すつもりがないからなんだと思った。 脳裏には蓋も溶接もできないから、うっかり興味本位で蓋を開けた人を巻き込む為だ。 服を着ているのは、裸を隠す為ではなく、心を開いた人に見せる為。 言わば切り札。という極論もあるけど、これは保留。 ★ 22年生きた自分より、 5年かけて作った美術品の方がよっぽど優れていて落ち込んでいましたが、 5年かけて作品を作った人が40年かけて作った人間だと言う事で、敵わないのは仕方ない。...
Aさんの家にはりんごがひとつありました。 Bさんの家にはりんごがふたつありました。 両方合わせていくつでしょう。 はい三つですってわけにはいかないんだ。 オレがわからないのは、そういうことなんだよ。そうだろ? おとうさんをりんごみたいにふたつに割ってしまうこともできないし、 うちにはおとうさんがいないから、おじいさんがひとりだから、 だからおじいさんがうちのおとうさんになるってわけにもいかない。 りんごじゃないんだから。 でも、どこかにみんながもっとうまくいく仕組みがあったっていいはずで、 オレはそういう仕組みを見つけたいんだ。 地球には大気があって、鳥には翼があって、風が吹いて、鳥が空を飛んで、 そういうでかい仕組みを人間は見つけてきたんだろ。だから飛行機は飛ぶんだろ。 音より速く飛べる飛行機があるのに、どうしてうちにはおとうさんがいないんだよ。...
そんなにたくさんの 思い出が、このふたりの中にしまってあるなんて驚きだった。もしかすると、歳をとるのは楽しいことなのかもしれない。歳をとればとるほど、思い出は増えるのだから。そしていつかその持ち主があとかたもなく消えてしまっても、思い出は空気の中を漂い、雨に溶け、土に染み込んで、生き続けるとしたら・・・いろんなところを漂いながら、また別のだれかの心に、ちょびっとしのびこんでみるかもしれない。時々、初めての場所なのに、なぜか来たことがあると感じたりするのは、遠い昔のだれかの思い出のいたずらなのだ。そう考えて、ぼくはなんだかうれしくなった。— via「夏の庭」湯本香樹実
ぼくは河辺の気持ちがよくわかった。 ぼくも、『もしおじいさんだったら』ということをあいかわらずよく考える。 すると自分ひとりでくよくよ考えているよりずっと、すっきり答えが出てくるのだ。 それは、『思い出の中にいきている』なんていうのとは、ちょっと違う。 もっとたしかな、手応えのある感じだ。 — via「夏の庭」湯本香樹実
三束さん、わたしは三束さんを、愛しています。 三束さんのことを、愛しています。 部屋のなかで、会えないとき、夢から覚めたときに、どうしようもなく胸からこぼれ、 ただすぐに消えてゆくしかなかった言葉よりももっとつよいかたまりを、 わたしは三束さんにむけて放っていた。 三束さんを愛しています。 そう言ってしまうと下瞼と目のすきまが膨らむようにみるみるうちに涙があふれ、 頬を流れて顎にたまり、それからたくさんの粒になって夜のなかへ落ちていった。 瞬きもせず、何かから逃れるように、わたしから逃れるように、 涙は夜を目指す生きもののようにわたしの頬を這い、あとからあとから流れていった。 わたしは顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、 最後に泣いたのはもう思いだすこともできないほど遠い記憶のなかのことで、 あのときも、あのときも、わたしはきっとこんなふうに泣いてしまいたかったのだと思うと...
トートバッグから原稿の入った封筒を取りだして聖に渡した。 今回の原稿は単行本にして六百ページも分量があるもので、 片手でもつと手首がぐらりとするくらいの重さがあった。 聖は両手でそれをもって、 その厚みと重さを確かめるみたいにして首を軽くふり、わたしをみて笑った。 「信じられる? 人が人に向かって、こんなにも言いたいことがあるなんて」 — via「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子
十二月の空気は均質にぴんとはりつめ、地上では風なんてまったく吹いていないのに、 みあげるとはるか上空では猛スピードで雲が流されているのがみえた。 わたしはしばらく立ち止まって、夜空を見上げていた。 何層にもかさなりあった 白とも灰色ともつかなくなった夜空の 雲の濃淡は生き物の影のようで、 おおきなものが音もなく動いているのをみつめていると、 胸がどきどきと音をたてた。 真っ白に輝く月が顔をだした。 静かな、誕生日の夜だった。 わたしはジャンパーのポケットに両手を入れて歩きはじめ、 人影のないひっそりとした住宅街の道をゆくだけで、なぜなのか、 自分が少しだけいいものになったようなそんな気がした。 — via「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子
July 2011
1 post
私の中で向伊への気持ちはこの一年のあいだ、 とても一人の人間に対する感情とは思えなかった。 朝起きると、私の一日は向伊を許せる日と、許せない日に分かれた。 時間は向伊を覚えている時間と、忘れている時間の二つだった。 あのときああ反応していればよかったと嘆く私と、そうでなくてよかった私の二人だった。 巡り巡って向伊がいい人のように思えるときもあった。そんなはずがなかった。 出会ってしまった、という言葉が頭の中を回り続けた。 私は常にその言葉に振り回されないように自分が遠心力の中心だとイメージした。 うまくいかないときは身も心も持っていかれてぼろぼろになった。 — via「ぬるい毒」本谷有希子
June 2011
9 posts
やさしくて、かなしくて、おかしくて、気高くて、他に何が要るのでしょう。 — via「もの思う葦」太宰治
一日一日を、たっぷりと生きて行くより他は無い。 明日のことを思い煩うな。明日は明日みずから思い煩わん。 きょう一日を、よろこび、努め、人には優しくして暮したい。 青空もこのごろはばかに綺麗だ。舟を浮べたいくらい綺麗だ。 山茶花の花びらは、桜貝。音たてて散っている。 こんなに見事な花びらだったかと、ことしはじめて驚いている。 何もかも、なつかしいのだ。 煙草一本吸うのにも、泣いてみたいくらいの感謝の念で吸っている。 まさか、本当には泣かない。思わず微笑しているという程の意味である。 — via「新郎」太宰治
芸術家は、もともと弱い者の味方だったはずなんだ。 私は、途中で考えてきたことをそのまま言ってみた。 弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ。 こんな単純なこと、僕は忘れていた。僕だけじゃない。みんなが、忘れているんだ。 — via「畜犬談」太宰治
「自由が欲しい」そういった類の、誰かが言ってそうな高尚な不満を借りて、 仕事から逃げる理由を自分の中で作り出していたのだと思う。 自由に憧れていたのではなく、自由に憧れる人に憧れていた。 — via「陰日向に咲く」劇団ひとり
小学5年生の時、落とした消しゴムをYさんが拾ってくれたのに、 「ありがとう」の一言が言えなくて後悔した。 数分後、「さっきは、ありがとう」が言えなくて後悔した。 次の日、「昨日はありがとう」が言えなくて後悔した。 それから僕は、中学3年の夏、彼女が引っ越すまでの間、ずっと後悔していた。 そして好きだった。 — via「陰日向に咲く」劇団ひとり
発達した市場社会では、生きるとは自分が所有する身体・能力を活用して、 自分の生から快と満足を搾り出すプロジェクトだ、という人生観に陥りやすい。 — via「いま、働くということ」大庭健
「働くのは生きていくためだ」という圧倒的な正解 — via「いま、働くということ」大庭健
『生きる』ということが、気付かぬうちに、 私有したいのちを “原資” として快と満足を搾り出すプロジェクトへと切り詰められ、 仕事もまた、見返りとして快と満足を得るための手段へと矮小化されてしまう。 — via「いま、働くということ」大庭健
自由だから責任が発生するのではない。 逆に、我々は責任者を見つけねばならないから、 つまり、事件のけじめをつける必要があるから、 行為者が自由であり、意志によって行為がなされたと社会が宣言するのである。 — via「人が人を裁くということ」小坂井敏晶
May 2011
29 posts
友達は数を競うものじゃない。逆かもしれない。 百人の友達がいるとか、何十人もの人を好きになったという人は 実は本当の友達も真剣に好きになった人もいないんじゃないか。 負け惜しみかもしれないけど、大切な人は少ないから大切だ。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
我慢できる時は、がんばってみて。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
友だちなんかいなくたって、やることはいくらでもある。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
ぼくはずっと自分を人とは違うと思って生きてきた。 普通とは違う自分に怯え、同時にうっとりしていた。 自分を特別だと考えていた。ちっとも特別じゃない。ぼくは六十五億分の一。 人類の何十万年もの歴史の中の、たった十七年を生きているだけ。 自分の存在が、人類の進化の過程にいくつも存在する、 失われた環(ミッシング・リンク)なんかじゃなくて、 誰かと確実につながっていることがわかった。 ぼくは自分のミッシング・リンクを発見したのだ。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
ロシア人がゼネラル・モーターズのクルマに乗る時代が来るなんてね。 世界中の人間がアメリカ人と同じ生活をしたがっている。 全人類のその望みが叶った時が、地球の滅びる時だな。 せめてこの子たちが天寿をまっとうするまで、 地球に持ちこたえてもらいたいものだよ。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
みんなが見ているものと、自分に見えているものは、 同じものなんだろうかって、不安になることはないかい。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
他人の存在を必要としていない時の孤独はちっとも気にならないけど、 誰かが必要だとわかった時の孤独は、やっぱりつらい。 ぼくの心臓はフリント石でできているわけじゃないから。 — via「四度目の氷河期」荻原浩
僕が言いたかったことは、人間たちの世界を成立させているのは、 「ありがとう」という言葉を発する人間が存在するという原事実です。 価値の生成はそれより前には遡ることができません。 「ありがとう」という贈与に対する返礼の言葉、それだけが品物の価値を創造するのです。 — via「街場のメディア論」内田樹
稀少性を発見したり生み出すことが想像性の発揮しどころで、 単にフリーを駆使しても早晩立ち行かなくなる。 — via「フリー」クリス・アンダーソン
多くのアイデア商材の価格は引力の法則ならぬ、フリーの万有引力に引っ張られ、 それについては抵抗するよりも、むしろ活かす方法を模索せよ、ということだ。 そして、潤沢になってしまった商品の価値はほかへと移ってしまうので、 新たな稀少をさがしてそちらを換金化するべきだ。 — via「フリー」クリス・アンダーソン
低い限界費用で複製、伝達できる情報は無料になりたがり、 限界費用の高い情報は効果になりたがる。 — via「フリー」クリス・アンダーソン
読み終わったら、興奮してしばらくなにも出来なくなった。 椅子に座って、あっつい余韻に震えた。 — via Run to Me
「ほら」振り返る老女の向こう側に、私が見たことのない晴天が広がっている。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
白でも黒でもいい、風景は一色になるべきではないだろうか。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、 もっとも醜いのは、渋滞だ。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
「こんなに晴れてて、犬があそこにいてさ。子供も楽しそうだし、これだけで」 と一度言葉を切り、 「これだけで充分、ラッキーだね」と万歳をするかのように、両手を伸ばした。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
人が生きているうちの大半は、人生じゃなくて、ただの時間、だ。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
雨が垂れていた。 激しい勢いではないが、その分、永遠に降り止むこともないような粘り強さを感じる。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎
どうして、人間は、人を殺すんだ? どうして俺に、そんなことを。 ちょうど、君がそこに立っていたからだ。 別の人間がそこにいたら、そいつに訊ねただろうな。 たまたま質問があって、その質問の先に君が立っていた。 — via「死神の精度」伊坂幸太郎